片づけを終えて俺も登校する。

(凛も桜もその周囲に尋常でない魔力を感じた・・・やはり二人ともマスターになったか・・・そうなるとおそらく気付かれてるな・・・)

いずれは来る事だった・・・

だが、出来れば聖杯戦争後に割れて欲しかった。

(まあ、贅沢言える立場じゃないだろうな・・・)

どちらにしろ今後どうするかだ。

教室に入る。

すると俺の机に見慣れない手紙が置かれていた。

「??なんだ?」

それを手に取り内容を確かめる。

その瞬間背筋が凍った。

そこには定規を使い書かれた

今夜九時学校ニ来るベシ。来ない場合は・・・

この『・・・』はどういう意味!!

呪いこそかけられていないが無視した時の暁には本気で呪われかねん。

「凛かな?あの件だろうが行かないとな・・・」

聖杯の書三『召喚』

授業も滞りなく終わり、夕食もいつもの様に済ませる。

その間凛も桜もいつもの空気を装っていた。

そして夜、時間に俺は学校の校庭に来ていた。

「衛宮君来たのね」

いつもの朗らかさの無い無表情の凛がそこにいた。

おそらくこれが魔術師遠坂凛の顔なのだろう。

そしてその隣には表情に色の無い桜が立っていた。

「あんな風に呼ばれたからには来るさ。本気で呪われると思うぞあれは」

あえておどけて言う俺の返答に凛はクスリと笑う。

「でもああでもして呼び出さないと、こないでしょ?」

そこに桜が意を決した表情で俺に尋ねる。

「先輩・・・先輩は魔術師ですか?」

桜の表情は切実に俺に『いいえ』を言って欲しいようだった。

しかし、俺はそれを裏切る。

もはや俺の魔力はばれている以上嘘は言えない。

「ああ、最も使える魔術は二つだけの未熟者だが。それよりもすまなかった凛・桜今まで黙ってて」

「そんな事は別に良いわよ。魔術師同士の戦いは基本的に騙し合いだから。それよりも本題に入るわよ。衛宮君『聖杯戦争』は知っているわね」

「ああ」

「単刀直入に言うわ。仮にサーヴァントを呼び出す事が出来ても直ぐに放棄して」

「お願いです先輩・・・先輩と戦いたくないんです」

二人の言葉は真摯だった。

どう返答するべきか・・・俺は『聖杯戦争』に参戦する気は無い。

それであれば俺は『ああ、参加しない』と言って二人を安心させてやれば良いのだ。

しかし、・・・俺には行わなくてはならない仕事がある。

ゼルレッチ老より託された『大聖杯』の破壊・・・これだけは敢行しなくてはならない。

嘘をつくべきかそれとも真実を告げるべきか・・・

「凛、俺は・・・」

気持ちの整理が付かぬまま、言おうとした時背後から気配を感じ取った。

「!!誰だ!!」

俺が振り返りざま距離を取る。

そこには全身青の皮鎧を身に着けた長身の男がいた。

見た目は普通の人間、しかしその膨大な魔力がこの男の正体を如実に語っていた。

「サーヴァント・・・」

「はっ、あんなくその様なマスターの命令でも聞くもんだな。哨戒していたらいきなりマスター二人にとんでもない化け物一人見つけるとは」

と、そのサーヴァントは面白そうに言う。

「おい、その化け物ってどういう意味だ?」

「そのまんまだよ。気配を消すだけ消して近寄ったのにあっさりとおめえは気がついた。おまけにサーヴァントにも匹敵する魔力の量、そんな奴を化け物と呼ばずしてなんと呼ぶって言うんだ?」

「ちっ・・・」

ゼルレッチ老から気配探知を徹底的に学んだ事が逆に仇になるとは・・・

「まあ、いいや。おめえは見た所マスターじゃ無さそうだからな。どいてな。俺が用があるのは、おめえの後ろにいるマスターの方だからな」

そう言うと、そのサーヴァントは右手に真紅の槍を構える。

「その槍・・・あんた『ランサー』か?」

「いい勘してるなと言いたい所だがこいつを見れば誰でもわかるよな」

「衛宮君下がって!!アーチャー!!」

「ライダー!!」

その瞬間凛と桜は俺の前に躍り出る。

そして、呼び掛けに応える様に真紅の外套を身に纏う長身の男と黒のボディスーツを着たやはり長身の女性が現れる。

「ほう、アーチャーにライダーかこりゃ面白くなりそうだな」

二対一にも拘らずランサーは愉快そうに笑い槍を構える。

それに呼応して男の方は二振りの短剣を女の方は鎖のついた巨大な釘を思わせるダガーをそれぞれ構える。

「ずいぶんと余裕があるようですが援軍の期待でもしているのですか?ランサー」

「はっ、それこそまさかだろ、ライダー。俺はただ単に生死をかけた戦いを望んでいるだけだ」

「ふん、戦闘狂か」

そんな会話と共に三色の風が校庭を吹き荒れた。

赤の風と青の風がぶつかったかと思えば今度は青と黒の風がぶつかる。

たった一回の激突にも拘らず膨大な魔力が吹き荒れ、その度に火花が散る。

これがサーヴァントの戦い、

凛と桜は呆然としていたが俺にとっては、志貴と死徒やら幻想種やら果てには鬼とも闘ったから、別に驚かない。

それよりもランサーの槍を検索に入っていた。

(あの槍・・・どうも嫌な予感がする)

そうしている内に、三者がそれぞれ間合いを取り直す。

無論傷などついている訳が無い。

「はっ、さすがだな。こうでなくちゃサーヴァントになった意味がねえ。だがな、時間も無限じゃねえんでな、決めさせてもらうぜ」

そう言うとランサーはルーン魔術を発動、火の壁を発生させる。

「くっ!!」

「ちっ!!」

アーチャーとライダーが怯む隙を突く様に距離を取ったランサーは槍を大きく構える。

その瞬間急速に槍に凝縮される魔力。

それと同時にやっと俺はあの槍の検索が完了した。

(魔槍ゲイ・ボルク!!すると奴はアイルランドの英雄『クー・フーリン』・・・そしてあの槍は放てば必ず心臓を貫く・・・そうなれば!!)

「行くぜ!!」

その瞬間ランサーが弾丸の如く突進する。

目標はライダー!!

「刺し穿つ・・・(ゲイ・・・)」

真名が唱えられたと思った瞬間俺は動いていた。

例え相手がサーヴァントであろうとも、俺の前では誰も殺させない!!

愚かと言われ様ともこの生き方は変えられない!!

これが俺にとって、たった一つの掟だから。

「!!坊主!!てめえ!!死にたいか!!」

突如立ちはだかる俺にランサーが絶叫する。

「馬鹿を言うな!!俺に自殺願望はねえ!!」

グローブを脱ぎ、詠唱を開始する。

既に検索は完了している。

「投影・開始(トーレス・オン)」

握られるのはかの大英雄と同じ真紅の槍

「刺し穿つ・・・(ゲイ・・・)」

俺も同じ構えを取り同じ真名を唱える。

「て、てめえ!!その槍は・・・」

次の瞬間

「「死棘の槍(ボルク)!!!」」

本物と偽物がぶつかり合う。

「な、何!!!」

「ぐうううう!!」

だが、さすがに本家本元のそれは違う。

俺の槍は瞬く間にひびが入り砕け散る。

だが咄嗟に、槍から手を離す。

そして続けざまに

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

俺が唱えた詠唱で偽物が爆発する。

小規模だがそれで充分だった。

爆発の反動で俺とランサーは距離を空ける。

幸い呪いは発動されていない(と言うよりも同じ質量の呪いによって打ち消されたと見た方が良い)らしく俺もライダーの心臓も無事であったが。

「はっ・・・ははっ・・・はははははははは!!!てめえ!!本当に人間か!!でたらめにも程があるぞ!!」

「悪かったな、でたらめで」

最初、茫然自失した表情だったが、やがて気が触れた様に笑うランサーに対して俺は冷静に返す。

「予定変更だ。どうも弓兵やら騎乗兵よりもお前から先に殺した方が良さそうだな」

そう言うと、俺に文句なしの殺気が叩きつけられる。

「おいクー・フーリン、俺はサーヴァントでもましてやマスターですらないんだぞ。なんで俺から殺そうとする?」

「知れた事だ。俺の槍と俺の技をあそこまで模倣出来る上に俺の真名まで知っている怪物を放置できるかよ。それにお前とも面白れえ闘いが出来そうだからな」

「化け物の次は怪物かよ・・・英霊にそこまで高く見られる人間は俺だけだろうな・・・」

「安心しな。もう貴様以外出てこねえよ」

その瞬間ランサーは再度俺に突っ込むが

「投影・開始(トーレス・オン)」

手に握られるのは黄金の杵。

俺が投擲系宝具の中で最も信頼する雷神の象徴、

「猛り狂う雷神の鉄槌!!(ヴァジュラ)」

投擲された鉄槌はまさしく稲妻の如くランサーとぶつかる。

「ぐおおおおお!!!」

真正面からぶつかり合う真紅の魔槍と黄金の鉄槌。

しかし、ランサーが弾き飛ばそうとした矢先に、続けざまに

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

離脱しつつも唱えた詠唱で作り出されたヴァジュラが爆発を起こした。







最大速度で学校を離れる。

ヴァジュラで足止めしたと言え既に獣じみた殺気が俺の背後からひしひしと迫ってくる。

このままでは追いつかれる事は火を見るより明らか、俺は周囲を見渡し交差点で止まる。

やがて俺の眼の前にもはや鬼神と化したランサーが現れる。

「はっ小僧、もう鬼ごっこはおしまいか?」

「仕方ないだろう。本気になったお前さんの足から逃げ切れるなんて最初から思ってもいないしな。それなら少しでも有利な状況で戦いたいと思うのが筋だろう?」

「本気で勝てると思っているのか?」

嘲笑うわけでもなく無表情で聞いてくる。

「まず無理だろうが足掻ける所まで足掻くと決めたんでね」

俺の答えに満足げな表情を浮かべる。

「ますます気に入ったぜ。小僧、名前を教えろ。覚えておいてやるよ」

「・・・衛宮士郎」

「士郎か・・・出来ればお前が俺のマスターだったらな」

そう言って槍を構えるランサー。

「前もって言っておくが俺もまだ死にたくないんでね。手段は選ぶ気は無いからな。投影・開始(トーレス・オン)」

その瞬間俺の手に一振りの剣が姿を現した。

しかし、その剣を見た瞬間ランサーの表情が一変した。

「おい・・・貴様マジで何者だ?」

「さっきも言っただろう。未熟な魔術師だよ」

「出鱈目吐くな。何をどうしたらそれを用意出来る・・・『カラドボルグ』を」

そう・・・クー・フーリンと数多くの死闘を演じた、同じアイルランドの英雄フェルグスの所有していた剣『カラドボルグ』。

クー・フーリンにとってはまさしく天敵と呼ぶに相応しい魔剣。

「言っただろう。俺も手段を選ぶ気は無いと」

そう言って俺はニヤリと笑う。

「は、はははっ!いいぜ!ますます気に入った!!」

「生憎俺はウルスター所縁の者じゃないから誓約(ゲッシュ)を利用する事は出来ないが」

「まあいいさ。それで十分なハンデだ!!行くぜ!!」

次の瞬間俺はランサーと真っ向から勝負を挑みかかった。







眼の前で起こった出来事を凛も桜も理解出来なかった。

アーチャーとライダーが怯んだ隙に、ライダーが倒されると思われた瞬間、士郎が突如間に立ち短時間だがサーヴァントと真っ向から戦ったのだ。

質の悪すぎる夢としか思えない。

「くくくくくく・・・おもしれえ事してくれるじゃねえか!!」

と、その爆煙の中ランサーが出現する。

「くくくく・・・逃げられると思うなよ!!坊主!!!地の果てまででも追ってやる!!」

その瞬間ランサーも暴風と化し士郎を追う。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

唖然として立ち尽くしていたが、ようやく我に帰る。

「ライダー!!大丈夫?」

桜はライダーに声を掛ける。

「はい、幸い彼がランサーの攻撃を自らの身を挺して防いでくれたので傷一つありません」

「そう・・・それよりも先輩は?」

「かなり遠くまで逃げたようだがランサーの足では直ぐに追いつかれるだろう」

二人の会話にアーチャーが加わる。

「ちょっと!!アーチャーあんた何してるのよ!!直ぐにランサーを追うわよ」

「追ってどうする気かね?凛」

「どうするって決まっているでしょ!!衛宮君を・・・」

「衛宮士郎の実力を君は今その眼を持って見た筈だ。あの男は危険すぎる。生身の人間でありながらサーヴァントと同等に渡り合う、あれを助ける気かね?」

「うっ・・・」

凛は一瞬沈黙する。

しかし、思わぬ方向から声が上がった。

「サクラ、衛宮士郎の援護に向かいたいと思うのですが、ご許可を」

ライダーの発言にアーチャーは無論の事、凛と桜も発言者を見る。

「どう言うつもりだ?ライダー、君もあの男を危険視していたと思うのだが」

「他意はありません。彼には一度助けられた以上彼に借りを返したい。それにどうも彼が死ねばサクラが悲しむようですのでそれを防ぐ。それだけですが」

「ライダー・・・改めてお願いするわ、先輩を助けて・・・」

「了解しました。サクラ、では失礼します」

「えっ?ちょっと、ライダー!!」

次の瞬間、ライダーは桜を抱きかかえると疾風と化して夜の街を駆け抜ける。

「アーチャー、私達も行くわよ」

「・・・やれやれ仕方ない。君の指示に従おう。では私もライダーに倣うとしようか」

「へっ?それって・・・!!あ、あんた何するのよ!!」

「こうでもしなければ追い付けまい!!暫く喋るなよ凛!!」

こうして蒼き暴風に続き、黒き疾風と赤き烈風が町を駆け抜けた。







ランサーの神速の一撃を俺は辛うじて弾き飛ばす。

やはり無茶があった。

カラドボルグの効果かそれとも力を抜いているのか、多分両方だろうが、ランサーの動きが若干鈍い。

だが、それでも気を抜けば一瞬で心臓を貫かれる強さだ。

しかも並大抵な速さでない為次の投影も出来ない。

無論だが真名を唱えるなど自殺行為に他ならない。

その為どうにかカラドボルグ一本で耐えてきたが遂に限界が来たようだ。

ランサーの一撃にカラドボルグが砕け、俺は後方数メートルまで吹き飛ばされる。

「詰めだな」

俺の心臓には槍の刃先が突きつけられる。

「たいした野郎だ。数合とはいえ、俺と真っ向から打ち合えるとはな。マジでお前がマスターだったら良かったぜ。だがこれも命令なんでな悪く思うなよ」

そう言うと槍を振りかぶり俺の心臓は貫かれる・・・と思われた瞬間、足元から妙に涼やかな音が聞こえてきた。

まるで誰かが鎖を弄んでいるような・・・そう思っていると

「うおおおお!!」

いきなりランサーの身体が後ろ・・・俺から見れば前方に飛び宙に弧を描く。

「な、なんだ?」

その答えはさらに後方にあった。

何時の間にか現れたライダーの鎖がランサーの足を拘束し、ライダーはランサーを捕らえたまま振り回しているのだ。

生半端な怪力ではあるまい。

ランサーは痩せ型といえ七・八十キロは体重があるはずだ。

それをライダーは大して苦も無く腕の力だけで振り回している。

やがて、鎖が外れたのかランサーが遠心力の勢いに乗って、数百メートル先まで飛ばされる。

「・・・まさしく人間ハンマー投げ・・・」

この際サーヴァントハンマー投げとでも言った方が良いか?

そんな馬鹿な事を考えていると、桜が近寄ってくる。

「先輩!大丈夫ですか!」

「桜か・・・ああ、おかげで助かった・・・と思いたいが・・・もう来たか」

見るとランサーが既にこちらに戻ってきている。

「もう戻ってきたのですか・・・」

「へっ、良い所で横槍入れやがって、まあ良いさ。どうせ俺もあの坊主を殺すのには気が引けたからな、それじゃあまあ第二ラウンドとしゃれこむか」

「いいでしょう」

そう言うと、ランサーとライダーは再度激突を始める。

「・・・まずいな・・・ランサーの奴、あれが本気じゃなかったのか?」

「えっ??」

「スピードではランサーが若干ライダーを上回っている」

その言葉通りだった。

一見すると互角であったが、良く見れば一手だがランサーがライダーを先んじていた。

その為ライダーはどうしても受けに回りランサーに良い様に攻め込まれている。

さすがは全サーヴァント中最速を誇るだけはある。

ライダーも決して遅くは無い。

しかし、ライダーを流星に例えるならランサーは稲妻だ。

どうしても一歩及ばない。

とそこに、

「衛宮君!!」

凛が駆けつけた。

「凛!」

「あんた大丈夫なの?」

「ああ、おかげ様で。それよりもライダーの援護を。かなり苦戦してる」

「わ、判ったわ・・・ってもうやっているわね」

そう、何時の間にかアーチャーは遠距離から弓を持って次々と矢を放ちランサーを牽制している。

だがそれでもようやく拮抗と言った所だろうか?

いや、ランサーはあの矢の雨の中未だにライダーと五分以上に渡り合っている。

良く見ればランサーは矢を弾き飛ばしても尚余力があるようだ。

「ちっ・・・矢避けの加護を受けているな・・・こうなりゃ仕方ないか・・・桜・凛・・・先に謝っておく・・・悪い。お前達の頼み・・・守れそうにも無い」

「えっ??」

「せ、先輩??」

そう言うと、俺は静かに呪文の詠唱の準備に入る。

しかし・・・魔法陣も無ければサーヴァント縁の触媒も無い。

あるのはゼルレッチ老直伝の召喚の為に詠唱する呪文のみ。

無い無い尽くしでどうやって呼べるのかとも思うが・・・一か八か・・・乗るか反るか・・・やるしかない。







「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大老シュバインオーグ・封印の覇アルカトラス・破壊の女帝ブルー。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

突如紡ぎだされた言葉は大きいものではなかったが、それははっきりと聞こえ、その声にサーヴァント達も戦いを止める。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

「―――――セット」

「――――――告げる」

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

何時の間にか士郎の眼の前には魔力で描かれた魔法陣が鎮座している。

その魔法陣から膨大な量の魔力が噴き出さんとしている。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

その瞬間、魔力が奔流と化し、周囲を光が満ち溢れる。

「これは・・・」

「どうやら本当に奴が七人目のようだな」

「へっ・・・おもしれえ」







その光が収まった時俺の眼の前には・・・

「問おう・・・」

銀の鎧と蒼の衣を着た小柄な少女が立っていた。

しかし、その膨大な魔力だけでもわかる。

彼女はサーヴァント・・・

「貴方が私のマスターか?」

その神々しさすら感じる光景に俺は息を呑んだ。

美しさに眼を離せなかった。

しかし、俺の口からは自然に言葉が出た。

「逆に問おう。君が俺のサーヴァントか?」

そう言いながら左手の甲に現れた火傷の跡に隠れるように浮かび上がる令呪を見せる。

「確かに確認しました。サーヴァント・セイバーこれより貴方をマスターとして・・・そして貴方の剣としてこの『聖杯戦争』を戦い抜く事を誓わせていただきます」

その応えに俺は自然に肯き右手を差し出す。

「??マスター?」

「よろしく頼むセイバー。悪いな・・・とんだ未熟者に呼ばれちまったが」

「そ、その様な事はありません。私に供給される魔力、量・質ともに申し分ない。これが未熟者などとんでもない」

「そうか?」

俺の問いに肯くセイバー。

そして思い出したように俺の手を握る。

「俺の名は衛宮士郎」

「!!!・・・エミヤ・・・」

俺の名を聞いた瞬間セイバーは一瞬硬直した。

「どうかしたのか?」

その理由を俺は彼女以上に知っていた。

しかし、それをおくびに出さず不思議そうな口調で聞き直す。

「い、いえ・・・で、では貴方の事はシロウと呼べば宜しいでしょうか?私としてはこう呼びたいのですが」

「そうか・・・ああ、それで良いならお願いできるか?セイバーすまないが早速働いてもらいたい」

「はい、判っております。あの三体のサーヴァントを・・・」

「いや、あの青いサーヴァント・・・ランサーだけと戦ってくれ」

「??ではもう二体は?」

「まだ戦わなくて良い。二人とも俺にとっては大切な人がマスターだから」

「・・・・・・」

その表情には疑問と不満がありありと浮かんでいた。

だがそれでも

「了解しました。これよりランサーを攻撃します」

と肯き直ぐに乱戦の中に飛び込んだ。







咄嗟にランサーは危険を察したのだろう。

攻撃を中止してセイバーの一撃を避ける。

ランサーとセイバーは激しく打ち合いを始める。

だが・・・セイバーの武器は何だ?

一見すると徒手空拳に見える。

しかし、何も無ければランサーの槍を弾き飛ばしているのは一体・・・

俺の思考を他所にランサーとセイバーの白兵戦はますますヒートアップしてくる。

「はっ!!残り物には福があるってこの国の格言にあったがその通りだったな!!セイバー」

「どういう意味だ!!」

「まんまだよ!!いいマスターに呼ばれたな!!出来れば俺と交換して欲しいぜ!!」

「残念ですがランサー貴方にその機会は永久に訪れません」

その瞬間、ライダーがセイバーに加勢する。

更に思い出した様にアーチャーの矢が次々と襲い掛かる。

形勢不利と判断したのか距離を取り体勢を立て直すが、既に前にセイバー、後方にライダーが機会を伺い、そして遠方からはアーチャーがランサーに狙いを定めている。

「ちっ・・・三対一かよ・・・」

「ランサー、もはや逃げ場は無い。諦めろ」

代表してアーチャーが言う。

「はっ、まさか、俺はこれでも生き汚いのが心情なんでね、取り敢えず三体とやりあったからこれで失礼するぜ」

その瞬間、ランサーはそのスピードを全て逃避に使うと思いきや俺の眼の前に来た。

「シロウ!!」

「先輩!!」

「衛宮君!!」

全員動けない。

セイバーもライダーもアーチャーも迂闊に攻撃出来ないと言った様子だったが俺とランサーは違った。

ランサーに不思議と殺気は感じられなかった。

「へっ、士郎だったな」

「ああ」

「機会があったらお前をマスターにしたかったぜ」

ただそれだけ言うと今度こそランサーはその場から離脱した。

「・・・ふう・・・あいつ・・・よほど不本意な召喚でもされたのか・・・」

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